植物名 | |
ラテン名 | Gentiana triflora Pallas |
文献コード | Gentiana-triflora-Ref-2 |
出典(著者,雑誌,巻号頁,発行年) | Hoshi N et al., Res Bull Iwate Res Ctr 11: 17-33 (2011) |
要約(和訳) | 岩手県が育成したリンドウの多くはF1 品種であることから,自殖劣性の特性を有するリンドウの親株の維持・増殖に多大な労力を必要としている.そこで,圃場よりも省力的かつ効率的に維持・増殖が可能な組織培養を利用した種苗生産システムを構築するため,葉片培養,越冬芽ディスク培養,液体振とう培養の手法について検討した.葉片培養においてMS培地にナフタレン酢酸0.5mg/l,チジアズロン10.0mg/l およびショ糖3%を添加した培地(GC2 培地)で培養することによりカルス形成とシュート形成が可能であるが,系統間差や個体差,外植片の条件などの詳細についても検討した.また,培養中に形成した越冬芽の節を1節含む5mm 厚に切り出した組織(越冬芽ディスク)をGC2培地で培養することによりカルス及びシュート形成がみられる越冬芽ディスク培養が可能となった.越冬芽を形成した幼植物をホルモンフリーのMS液体培地に継代培養し,120rpmで液体振とう培養による増殖が可能となった.さらに,葉片培養由来のシュートを15℃の低温培養により越冬芽を誘導し維持することが可能となった.以上の手法を組み合わせることにより,一部の系統を除き組織培養による増殖,系統維持,及び発根馴化までの一連の工程が実用可能と考えられた.さらにこれらの技術を総合化して,実際の種苗生産を想定した作業工程,系統別・培養手法別の
難易性を整理した.以上のことから,組織培養を利用したリンドウの種苗生産は,優良種子の安定供給と効率的な育種の推進に貢献するとともに,リンドウ生産農家の経営安定と,計画的な産地形成につながるものと期待される. |
目的 | リンドウF1親の種苗生産を可能とするための植物組織培養システムの確立 |
材料(品種,系統,産地,由来) | エゾオヤマリンドウ(Gentiana triflora):松尾系,吾妻系,IAW 系,白中生系,千沼ヶ原系、エゾリンドウ(G. triflora)北海道系、矢巾系、磐梯系、エゾ早生系を供試した. |
外植片 | 培養茎頂由来の培養個体の主脈を含む葉切片(5 mm× 8 mm角)、茎頂培養由来の幼植物 |
初期培養 | |
シュート増殖 | 培養茎頂由来の培養個体の主脈を含む葉切片(5 mm× 8 mm角)を縦又は水平に培地に置床し、培養開始3日間は暗所、その後、23℃、16時間明期(4,500Lx)で培養し、培養開始2ヶ月後に形態形成を調査した。培地は、葉片培養培地として有望なGC2培地[MS基本培地、ナフタレン酢酸(NAA)0.5 mg/L + チジアズロン(TDZ)10 mg/L、ショ糖3%、ゲランガム0.2%]を中心に、好適植物ホルモンの種類と濃度を検討するため、基本培地はMS、NAA 0.1、0.5、1 mg/L、TDZ 1、5、10 mg/L及びを組み合わせて添加し、1区のみベンジルアデニン(BA) 10 mg/Lを添加した培地を用いた。又、培養器として、シャーレ(φ9 cm×2 cm:培地量20 mL)及びプラントボックス(6 cm×6 cm×10 cm:培地量50 mL)を検討した。
系統間、個体間での差異に関しては、葉切片の調製までは上記と同じとし、培養条件は、培養開始7日間は23℃、暗所、その後23℃、16時間明期(3,500Lx)とし、その後不定芽伸長培地(植物ホルモン無添加MS培地)に移植し、培養開始から2ヶ月及び6ヶ月後に形態形成を調査した。又、植付け片の条件(葉位、ロゼット型/伸長型、葉片培養物由来)が不定芽形成に及ぼす影響についても調査した。
難培養系統(松尾系、吾妻系、IAW系、白中生系)のうち、松尾系はシュート形成がほとんど見られず、吾妻系及び白中生系はシュート形成が見られたもののカルス当たりシュート数は1本以下で効率が低かった。IAW系は、NAA-TDZ:0.1-10又は0.5-5で最大値カルス当たりシュート数1.9本が得られた。葉片置床方法については、不定芽形成数に明確な傾向は見られなかった。培養器については、プラントボックスの不定芽形成率は試験管及びシャーレよりも高かったが、ガラス化が見られ、試験管が最も適切であると判断した。北海道系、矢巾系、磐梯系の3系統9個体で培養6ヶ月後に系統間、個体間での不定芽形成反応の差異を調査したところ、どの系統も個体差が見られ、特に磐梯系において個体差が大きかった。北海道系、千沼ケ原系、磐梯系、吾妻系、松尾系、えぞ早生系、白中生系、の7系統の葉片をGC2培地で1.5ヶ月間培養し、その後、ホルモン無添加培地に移植し、2ヶ月後の不定芽形成の系統間差を調査したところ、北海道系、千沼ケ原系、磐梯系についてはカルスと不定芽形成が見られ、不定芽形成数も1葉片当たり10本以上見られるものが多く、得られた不定芽に形態的な異常は見られなかった。吾妻系、松尾系、えぞ早生系はカルス形成のみが観察され、白中生系はカルス形成も確認されなかった。植付け片の条件が不定芽形成に及ぼす影響については、明確な差は見られなかった。
千沼ケ原系の葉片培養由来の個体に形成された越冬芽(未展葉)と展葉した越冬芽より、3種の植付け片(展葉した越冬芽1節を含む2-3 mm厚の組織、展葉した越冬芽1節を含む5 mm厚の組織、未展葉の越冬芽を含む5 mm厚の組織)を調製しGC2培地、培養開始3日間は23℃暗所、その後は23℃、16時間明期、3,500Lxで培養し、3ヶ月後に不定芽形成を調査したところ、展葉した越冬芽から調製した植付け片(以降、越冬芽ディスク)は、2〜5 mm厚の範囲ではカルス形成並びに不定芽形成が可能であり、厚さの違いによる大差はなかった。一方、未展葉の越冬芽から調製した植付け片の場合は、カルス形成せずにそのままシュート地して伸長した場合があった。松尾系、矢巾系、吾妻系においても越冬芽ディスクを調製し同様に不定芽形成を調査したところ、全ての系統でカルスが形成され、葉片培養で不定芽形成が困難であった松尾系、吾妻系を含む全ての系統で不定芽の誘導が可能であった。矢巾系において、越冬芽の径(2 mm以下と5 mm前後)が不定芽形成に及ぼす影響を調査したところ、径の細いものでも十分不定芽形成が可能であった。
北海道系、千沼ケ原系、矢巾系、葉片培養が困難な吾妻系、松尾系の茎頂培養由来幼植物を、ショ糖3%、ゲランガム0.2%を添加したMS培地に移植し、15℃、16時間明期、3,000Lxで4ヵ月間培養し、越冬芽を形成した幼植物体をMSホルモン無添加又はBA 0.01 mg/L添加MS培地(100 mL/300 mL広口フラスコ)へ移して、23℃、16時間明期で振とう培養(120 rpm)し、2ヵ月後増殖状況を調査した。その結果、いずれの系統でもシュート増殖が可能で、葉片培養での増殖が困難な吾妻系や松尾系であっても増殖が可能なことを確認し、BAの添加効果は認められず、ホルモン無添加でも十分な増殖が可能であった。
エゾリンドウ系は培養中に花芽形成が生じ越冬芽が形成されずそのまま枯死する個体が多いが、矢巾系では不定芽を15℃で低温培養すると越冬芽を形成し維持が可能となっていることから、他の系統、北海道系、吾妻系、千沼ヶ原系、松尾系、磐梯系、白中生系、IAW系について、この手法が適応できるか検討した。その結果、15℃培養での越冬芽形成は、供試した全ての系統で確認された。
又、不定芽を15℃で長期保存するための条件を検討するため、矢巾系、北海道系の茎頂培養由来の不定芽をショ糖3%、ゲランガム0.2%含有1/2MS培地、23℃で3ヵ月間培養し発根させた植物体を、ショ糖3、6、9%、ゲランガム0.2%を添加した1/2MS又はMS培地、15℃、16時間明期、3,000Lxで培養し、4ヵ月後に越冬芽の形成数等を調査した。その結果、矢巾系、北海道系ともに15℃での越冬芽形成が確認されたが、矢巾系は培養期間が長くなると萌芽するものが多く、ショ糖濃度が多いほど、越冬芽の芽や根の色は濃い紫色になる傾向にあった。北海道系は花芽形成による枯死率が非常に高く、越冬芽形成に至ったものはわずかであった。 |
発根 | 北海道系、矢巾系、磐梯系及びえぞ早生系の葉片培養由来のシュートを、ショ糖3%、ゲランガム0.2%含有1/2MS培地又はNAA 0.01 mg/Lを添加したMS培地で培養し、発根を検討した。いずれの培地でも発根率に大きな差は見られなかったが、1/2MS培地は外観上は馴化に適した細根が多数見られた。 |
馴化条件 | 発根培地(1/2MS、ショ糖3%、ゲランガム0.2%)、23℃、16時間明期、4,500Lxに1ヵ月間置床し発根させたシュートは、ゲランガムをよく洗い流した後、馴化処理を行った。移植床は72穴セルトレイにリンドウ培土を詰めて十分に給水したものを使用した。その後の管理方法として、試験区aは、移植後育苗温室(15〜25℃)で管理し、馴化開始後3日間はポリエチレン袋で被覆して乾燥を防ぎ、1日3回ミスト潅水を行った。
試験区bは、試験区aと同様にシュートをセルトレイに移植後、直射日光の当たらない屋内で底面潅水を行い、馴化開始1週間はビニール袋などで被覆し湿室状態にした。その後2〜3日間ビニールの開閉操作をした後除去し、馴化開始10日〜2週間後に育苗温室(15〜25℃)へ移した。移動後は1週間遮光(シルバータフベル:40%遮光)した。
馴化効率は、試験区a:44.5%、試験区b:89.9%であり、馴化は試験区bの条件が適すると考えられた。 |
鉢上げ・定植 | 馴化試験区a:被覆を外した後も育苗温室で同様に管理し、1.5〜2ヵ月後にリンドウ培土を用いて2.5号鉢に鉢上げした。
馴化試験区b:1.5〜2ヵ月後にリンドウ培土:十和田砂を1:1に調製した用土を用いて2.5号鉢に鉢上げした。 |
栽培条件 | |
再生植物体の形質 | |
分析した成分 | |
成分の抽出法 | |
分析法 | |
備考 | |